研究背景
自動車などの製品の利用やその生産プロセスでは,多量の熱が生じますが,大部分は排熱として捨てられています.エネルギー源を有限の資源である化石燃料に依存している現状では,この排熱を余すことなく利用することが求められます.
一口に排熱を利用すると言っても,熱を使う時間・場所が違う,温度が低いなどの課題があります.
そこで,私たちは熱を蓄えるあるいは温度レベルを上げる技術として,化学反応を用いた蓄熱・ヒートポンプを研究しています.
原理
化学蓄熱は下図の装置で構成されます.例として本研究室でも扱っているCaO(s)+H2O(g)⇔Ca(OH)2(s)の反応系を用いて説明します.
- 出熱過程…排熱を蒸発器に投入し反応の進行に必要な水蒸気を反応器へ移動させます.CaO(s)+H2O(g)→Ca(OH)2(s)の発熱反応が進行し出熱します
- 蓄熱過程…反応器に高温排熱をあてることで,Ca(OH)2(s)→CaO(s)+H2O(g)の反応を進行させ,出てきた水蒸気を凝縮器で回収します.CaOとH2Oを分離しておけば反応が進むことはないので,長期蓄熱が可能となります
課題・取り組み
化学蓄熱の実用化を目指すうえで大きな課題が2点挙げられます.
①スケールアップに伴う反応器設計
スケールアップでは、高い熱出力を得るために試料の量を増やします.その結果、試料充填層内を気体が移動する距離(物質移動距離)や,充填層中心部から熱交換流体へ熱が移動する距離(伝熱距離)が長くなってしまいます.それを解決するための取り組みとして,少量の試料を用いて、試料の反応・気体の移動・伝熱を個々に評価し,熱出力に大きく寄与しているものを決定します.そして改善に繋がるアイデアを実証していきます.
②反応の繰り返しによる劣化
化学蓄熱・ヒートポンプにおいて,試料は出熱時の吸収反応によって膨張し放熱時の再生反応によって収縮をします.また例えばCaOですと再生反応時500℃以上に加熱をします.これらの操作によって試料が凝集や焼結をして,試料の表面積が減少し,反応速度の低下に大きく影響を与えます.実際に吸収・再生の繰り返し実験を行って反応速度や反応率に変化が生じるかを確認しています.
このように化学蓄熱の実用化にはいくつかの課題があり,それに向けて様々な実験を行っています.これらを簡単にまとめた例を次に示します.
- 反応特性の測定…反応速度,反応率などを測定し,数値解析に反映します
- 繰り返し実験…反応材料を繰り返し使うことで劣化が生じるかを観察し,その対策を考えます
- スケールアップ実験…スケールアップに伴う課題の抽出,運転条件の決定をします
- 数値解析…目標の出力を満たすような装置の設計をします
また今回化学蓄熱の説明をCaO/H2O系を用いて説明しましたが本研究室では他にも温度帯によって色々な反応系を使用しています.その例を何点か次に示します.
- CaO/H2O系…窯業炉から排出される500℃以上の排熱を有効利用することを目的とした反応系です.500℃で蓄熱し500℃で放熱が出来ることを目指しています
- SrCl2/NH3系…90°C以下の低温排熱を蓄熱貯蔵することが可能な反応系です.作動媒体としてアンモニアを利用しており,高圧条件下で反応が進行します
- CaCl2/H2O系…100℃未満の低温排熱を160℃程度まで組み上げる昇温型のケミカルヒートポンプです.安全・安価な塩化カルシウムの水和反応を利用します