バイタル情報を用いる人の快適性とスマート空調
1.研究背景
低炭素社会の実現に向けて,自動車のエネルギー効率の向上と,乗車時の快適性が重要視されてきています.エアコンを用いた従来の空調技術では車両空間全体を暖めるため,乗車時の温度から快適感を得られる温度に達するまでに多くのエネルギー,時間がかかります.そこで,乗員に合わせた個人温調(パーソナル温調)を用いることで人体に必要な熱量を直接与えて,少ないエネルギーで速やかに快適な条件を満たす設計が可能と考えました(Fig.1).
パーソナル温調の最適な制御には乗員個人の生体情報の連続的な測定が必要不可欠となります.本研究室では乗員の生体情報として脳波と心拍変動に着目し,温熱的な快適感を評価しています.
2.快適感評価技術
快適感は脳で感じ,脳活動を調べることで快適感の評価が可能と考えました.リラックス時には脳波の中でもα波が顕著に出現します.α波は時間経過とともに常に変動しており,この変動を周波数解析してみると,気分の良い安静時やリラックス時には1/fゆらぎに近い特性が見られることが経験的に知られています1)(Fig.2).この傾きの絶対値をみることで,温熱的な快適感を評価しています.
また,心拍変動は自律神経機能を反映することが知られており,ストレス評価の指標として多く用いられています2).心臓の拍動間隔は交感神経と副交感神経に影響を受けて常に変動しています.拍動間隔の変動の原因は,呼吸に由来する成分である高周波成分(High Frequency component : HF)と血圧に由来する成分でMayer波と呼ばれる低周波成分(Low Frequency component : LF)で大きく表現できます.HFは0.15~0.4 Hz近辺の周波数帯であり,主に副交感神経の活動を反映し,リラックス状態で優位に出現します.LFは0.04~0.15 Hz近辺の周波数帯であり,交感神経と副交感神経の双方の活動を反映しており,ストレス状態で優位に出現します.
LF,HF成分の強さまたはそれらの割合を求めることで交感神経と副交感神経の活動状況を明らかにすることができ,リラックス状態を計測できる,つまり快適感を推定できることに繋がります.
本研究室では環境温度の変化と快適感の相関を示し,これらの評価指標を用いて最適な温調制御を探索しています.
参考文献
(1) 吉田倫幸:脳波のゆらぎ計測と快適評価,日本音響学会誌,Vol.46,No.11,p.914-919 (1990)
(2) 松本佳昭,森信彰,三田尻涼,江鐘偉:心拍揺らぎによる精神的ストレス評価法に関する研究,ライフサポート,Vol.22,No.3,p19-25 (2010)