水素炎を用いた加熱炉の開発

水素炎を用いた加熱炉の開発

内容

本研究開発では,水素への燃料転換を支える,水素炎を用いる加熱炉やバーナーの基盤技術の開発に取り組み,ユーザーから求められる加熱形態や被加熱物の物性に対応する新たな機能を備えた実炉や実バーナーの先進デザイン研究と開発を行っています.

知の拠点あいち(豊田市)新エネルギー実証研究エリアでは,新規に開発した水素を燃料とする「マイクロアレイバーナー」を用いる試験加熱炉を設置し,加熱炉の安定操作を実証し,実際に非加熱物の熱処理を試みています.

なお,本研究は,「知の拠点あいち重点研究プロジェクト(Ⅱ期)」の一環として進めています.

原理

本技術はCO2フリー加熱炉を提供する基盤技術となるもので,1つの直径が4㎜ほどのマイクロバーナーの集合体でバーナー全体を構成します.水素は燃焼速度が高く炭素を含まないため,非常に小さな不輝炎が生成されます.これを積極的に利用して,従来から多く採用されているガンタイプバーナーと比較して,加熱炉の面全体で加熱し局所の温度管理が精密に制御することが可能な加熱炉を構築できると期待しています.さらに,理論空気量が少なく,また燃焼ガスには従来と比較して約1.8倍の水蒸気が含まれるので,凝縮熱を積極的に回収し熱効率の大幅な向上も図ることが可能です.

 

2018-03-22

化学蓄熱・化学ヒートポンプ

研究背景

自動車などの製品の利用やその生産プロセスでは,多量の熱が生じますが,大部分は排熱として捨てられています.エネルギー源を有限の資源である化石燃料に依存している現状では,この排熱を余すことなく利用することが求められます.

一口に排熱を利用すると言っても,熱を使う時間・場所が違う,温度が低いなどの課題があります.

そこで,私たちは熱を蓄えるあるいは温度レベルを上げる技術として,化学反応を用いた蓄熱・ヒートポンプを研究しています.

 

原理

化学蓄熱は下図の装置で構成されます.例として本研究室でも扱っているCaO(s)+H2O(g)⇔Ca(OH)2(s)の反応系を用いて説明します.

  • 出熱過程…排熱を蒸発器に投入し反応の進行に必要な水蒸気を反応器へ移動させます.CaO(s)+H2O(g)→Ca(OH)2(s)の発熱反応が進行し出熱します
  • 蓄熱過程…反応器に高温排熱をあてることで,Ca(OH)2(s)→CaO(s)+H2O(g)の反応を進行させ,出てきた水蒸気を凝縮器で回収します.CaOとH2Oを分離しておけば反応が進むことはないので,長期蓄熱が可能となります

蓄熱原理

 

課題・取り組み

化学蓄熱の実用化を目指すうえで大きな課題が2点挙げられます.

①スケールアップに伴う反応器設計

スケールアップでは、高い熱出力を得るために試料の量を増やします.その結果、試料充填層内を気体が移動する距離(物質移動距離)や,充填層中心部から熱交換流体へ熱が移動する距離(伝熱距離)が長くなってしまいます.それを解決するための取り組みとして,少量の試料を用いて、試料の反応・気体の移動・伝熱を個々に評価し,熱出力に大きく寄与しているものを決定します.そして改善に繋がるアイデアを実証していきます.

②反応の繰り返しによる劣化

化学蓄熱・ヒートポンプにおいて,試料は出熱時の吸収反応によって膨張し放熱時の再生反応によって収縮をします.また例えばCaOですと再生反応時500℃以上に加熱をします.これらの操作によって試料が凝集や焼結をして,試料の表面積が減少し,反応速度の低下に大きく影響を与えます.実際に吸収・再生の繰り返し実験を行って反応速度や反応率に変化が生じるかを確認しています.

このように化学蓄熱の実用化にはいくつかの課題があり,それに向けて様々な実験を行っています.これらを簡単にまとめた例を次に示します.

  • 反応特性の測定…反応速度,反応率などを測定し,数値解析に反映します
  • 繰り返し実験…反応材料を繰り返し使うことで劣化が生じるかを観察し,その対策を考えます
  • スケールアップ実験…スケールアップに伴う課題の抽出,運転条件の決定をします
  • 数値解析…目標の出力を満たすような装置の設計をします

 

また今回化学蓄熱の説明をCaO/H2O系を用いて説明しましたが本研究室では他にも温度帯によって色々な反応系を使用しています.その例を何点か次に示します.

  • CaO/H2O系…窯業炉から排出される500℃以上の排熱を有効利用することを目的とした反応系です.500℃で蓄熱し500℃で放熱が出来ることを目指しています
  • SrCl2/NH3系…90°C以下の低温排熱を蓄熱貯蔵することが可能な反応系です.作動媒体としてアンモニアを利用しており,高圧条件下で反応が進行します
  • CaCl2/H2O系…100℃未満の低温排熱を160℃程度まで組み上げる昇温型のケミカルヒートポンプです.安全・安価な塩化カルシウムの水和反応を利用します
2015-03-21

グリーンモビリティー技術

 

バイタル情報を用いる人の快適性とスマート空調

1.研究背景

低炭素社会の実現に向けて,自動車のエネルギー効率の向上と,乗車時の快適性が重要視されてきています.エアコンを用いた従来の空調技術では車両空間全体を暖めるため,乗車時の温度から快適感を得られる温度に達するまでに多くのエネルギー,時間がかかります.そこで,乗員に合わせた個人温調(パーソナル温調)を用いることで人体に必要な熱量を直接与えて,少ないエネルギーで速やかに快適な条件を満たす設計が可能と考えました(Fig.1).

パーソナル温調の最適な制御には乗員個人の生体情報の連続的な測定が必要不可欠となります.本研究室では乗員の生体情報として脳波と心拍変動に着目し,温熱的な快適感を評価しています.

Fig.1 空調技術のイメージ (上図)従来の空調技術(下図)提案する空調技術

Fig.1 空調技術のイメージ
(上図)従来の空調技術(下図)提案する空調技術

 

2.快適感評価技術

快適感は脳で感じ,脳活動を調べることで快適感の評価が可能と考えました.リラックス時には脳波の中でもα波が顕著に出現します.α波は時間経過とともに常に変動しており,この変動を周波数解析してみると,気分の良い安静時やリラックス時には1/fゆらぎに近い特性が見られることが経験的に知られています1)(Fig.2).この傾きの絶対値をみることで,温熱的な快適感を評価しています.

Fig.2 α波の周波数解析値と快適感

Fig.2 α波の周波数解析値と快適感

また,心拍変動は自律神経機能を反映することが知られており,ストレス評価の指標として多く用いられています2).心臓の拍動間隔は交感神経と副交感神経に影響を受けて常に変動しています.拍動間隔の変動の原因は,呼吸に由来する成分である高周波成分(High Frequency component : HF)と血圧に由来する成分でMayer波と呼ばれる低周波成分(Low Frequency component : LF)で大きく表現できます.HFは0.15~0.4 Hz近辺の周波数帯であり,主に副交感神経の活動を反映し,リラックス状態で優位に出現します.LFは0.04~0.15 Hz近辺の周波数帯であり,交感神経と副交感神経の双方の活動を反映しており,ストレス状態で優位に出現します.

LF,HF成分の強さまたはそれらの割合を求めることで交感神経と副交感神経の活動状況を明らかにすることができ,リラックス状態を計測できる,つまり快適感を推定できることに繋がります.

Fig.3 心拍変動のパワースペクトルと自律神経指標

Fig.3 心拍変動のパワースペクトルと自律神経指標

本研究室では環境温度の変化と快適感の相関を示し,これらの評価指標を用いて最適な温調制御を探索しています.

 

参考文献

(1) 吉田倫幸:脳波のゆらぎ計測と快適評価,日本音響学会誌,Vol.46,No.11,p.914-919  (1990)

(2) 松本佳昭,森信彰,三田尻涼,江鐘偉:心拍揺らぎによる精神的ストレス評価法に関する研究,ライフサポート,Vol.22,No.3,p19-25 (2010)

2015-03-21

吸着式冷凍・吸着式ヒートポンプ(吸着ヒートポンプ)

 

熱・電ハイブリッド吸着式ヒートポンプの開発

吸着式ヒートポンプ(AHP)は活性炭,シリカゲル,ゼオライトなどの吸着材と水蒸気やアンモニアなどの作動媒体の吸・脱着により熱エネルギーを変換する機器です.AHPは373K 程度以下の熱エネルギーが利用可能で,特に水蒸気を作動媒体とするAHP は環境調和型熱エネルギー機器として,エネルギー資源・環境の問題の最有力候補技術に位置づけられています.AHPはFig.1に示す様に,一般的に一対の吸着器,蒸発器,凝縮器から構成され,各器間は蒸気バルブと熱交換流体が流れる流路,ポンプ,バルブと連結されています.吸着器内には吸着材が充填されており,吸着材が吸着質(冷媒)を吸・脱着する際に生じる発熱・吸熱反応を利用して冷熱・温熱を発生させるシステムです.

Fig.1 吸着式ヒートポンプ概略図

Fig.1 吸着式ヒートポンプ概略図

しかし,AHPは①既に普及している吸収式冷凍機と比較して2倍以上程度と大きい,②成績係数(COP)が他の冷凍機より低いといった課題があります.

本研究室では,これらの課題を解決するために,AHPに断熱圧縮機であるメカニカルブースターポンプ(MBP)を付加した熱・電ハイブリッド吸着式ヒートポンプ(熱・電ハイブリッドAHP)を提案しています.MBPはAHPの吸着器・蒸発器間および吸着器・凝縮器間に付加します. Fig.2 にハイブリッド化効果の一例としてシリカゲル/水蒸気の吸着等温線とAHPおよび熱・電ハイブリッドAHPの吸・脱着操作範囲を示します.AHPを相対圧φ1とφ2の範囲で稼動させた場合,得られる吸着量差はΔqですが,熱・電ハイブリッドAHP ではMBPによって吸着および脱着過程でそれぞれ吸着質蒸気を吸着材に加圧吸着および吸着材から減圧脱着させることができます.これによりAHP の操作相対圧範囲の拡大につながり(脱着:φ1→φ1’,吸着:φ2→φ2’),得られる吸着量差を大きくできます(脱着:Δqdes,吸着:Δqads).その結果,吸着材が有効利用され,吸着器の小型化およびCOP の増大が期待できます.

Fig. 2 熱・電ハイブリッド吸着式ヒートポンプの操作範囲

Fig. 2 熱・電ハイブリッド吸着式ヒートポンプの操作範囲

 

高性能デシカント空調機の開発

100℃以下の熱源を用いる調湿ならびに空調機能を有する吸着式デシカント空調機は,低温熱エネルギーの有効利用が可能な機器の一つとして着目されています.

デシカント空調プロセスは主にFig.3のように構成されており,デシカントローターに用いられる吸着材により,除湿を行います.デシカント空調の調湿性能は吸着材の吸着特性,吸・脱着速度等に支配されます.この中で脱着速度は,一般的なデシカント空調機には排熱供給もしくはヒーターによる間接加熱方式が採用されるため脱着速度が遅く,出力確保のために装置が大型化してしまう問題があります.

Fig.3 デシカント空調機の概略図

Fig.3 デシカント空調機の概略図

本研究室では,脱着過程にマイクロ波を導入した熱・マイクロ波照射ハイブリッド空調機を提案しています.マイクロ波加熱は電磁波による加熱方式のため①被加熱物質に対する直接かつ迅速加熱が可能,②他の被加熱物質にくらべて水の誘電損失係数が大きく,水を選択的に加熱できるといった特徴があります.そのため,脱着率や脱着速度の向上が期待でき,補助熱源としてマイクロ波を利用するデシカント空調機では供給エネルギー源の低減,ならびに装置のコンパクト化が可能につながるとかんがえています.

2015-03-21

スマートエネルギーシステム設計

太陽光発電とガスエンジンを組み込んだ熱電併給型マイクログリッドの動的解析

1.はじめに

現在、地球温暖化が人類にとって重要な問題となり,低炭素社会の実現に向けた広範な取り組みが行われています.そのなかで,電力供給の最適化を含めたスマートグリッドに関する研究は数多くされていますが,熱マネジメントを含めた全体のエネルギーを考慮した都市設計およびグリッドに関する研究は少ないです.よって本研究では,最終目的を太陽光と熱マネジメントを含めた熱電併給型マイクログリッドの構築とし,そのアプローチ手法として解析ツールを作成し動的な検討をしました.

2.解析の概要

エネルギーには熱・電力があり,熱電力を統一して考えるために,化学反応に置き換えて考えることとします,置き換えた図をFig.1に示します.

Fig.1 熱・電力から化学反応への変換

Fig.1 熱・電力から化学反応への変換

各種エネルギーを化学反応で置き換えることにより,実現象で生じる電圧降下等を上記で示すような損失項で置き換える事が出来ます.以上のことを考慮して解析します.具体的なフローチャートをFig.2に示します.なお解析の手順としてまず太陽光発電(以下,PV)とガスエンジンおよび蓄電池で構成される電力と熱出力を解析します.

Fig.2 熱電併給型マイクログリッドのフローチャート

Fig.2 熱電併給型マイクログリッドのフローチャート

以上の内容をVisual Modeler(㈱オメガシミュレーション,以下VM)およびC++を用いてプログラム化しました.また,この解析プログラムでは,外部条件として需要電力,熱需要および日射量を経時変化として組み込みました.

2015-03-21

アンモニアを基軸とするエネルギーシステム

アンモニア燃焼技術

CO2の大量排出に起因する地球温暖化対策が急務となっています.そのため,カーボンフリーのアンモニアを用いたエネルギーシステムが注目されています.近年,その合成条件がハーバー・ボッシュ法よりも大幅に緩和される可能性が報告されるようになったこともあり,これをエネルギーキャリヤーなどに積極的に活用することが考えられています.アンモニアは,従来の天然ガスをエネルギー源として製造する方法に加えて,風力や太陽光などの再生可能エネルギーをエネルギー源にして合成することも考えられていますが,アンモニアは化石燃料に比べて燃焼し難いため,燃料としてアンモニアを用いた場合にはアンモニアを燃焼しやすくする必要があります.

本研究室では,アンモニアを燃料とし,空気との直接燃焼技術を開発するため,アンモニアの一部を熱分解し,アンモニア・水素混合燃料を燃焼させるシステムを提案しています.また,アンモニア燃焼速度を促進するために,アンモニア予熱燃焼とアンモニア酸素富化燃焼を提案しています.

アンモニアシステム

 

研究課題

  • アンモニア・水素混合燃焼
  • アンモニア予熱燃焼
  • アンモニア酸素富化燃焼

 

研究アプローチ

  • 実験・シミュレーションで火炎から燃料の燃焼速度を測定
  • 高燃焼速度条件下のNOx排出量低減方法を探索

 

2015-03-21

熱のアップグレーディング

upgrading
温度レベルが低下した熱を,化学的操作によって質(温度レベル)を高めたり,高密度に蓄えたりする技術を開発しています.
そのうちの一つが,化学反応を用いるヒートポンプ,つまり,熱源の温度よりも高い温度を得る技術です.

その反対に,熱を利用して環境より低い温度,つまり,冷房熱(冷熱)を作り出す技術もあります.

2015-03-21

高度燃焼技術

アルミ溶解・保持炉の最適設計

現在世界全体で使用しているエネルギーのうち,約9割は化石燃料ですが,化石燃料の燃焼時には地球温暖化の原因と考えられるCO2やその他の酸化ガスが排出されます.地球環境への影響が指摘されていることから,環境問題に配慮したエネルギー利用が必要です.

エネルギーの有効利用は今後の世界において重要なテーマです.本研究室では,エネルギーの有効利用の1つの方法として,火炎からの熱供給効率の向上を目的として研究を行っています.具体的には,燃料種による輻射強度の差異が現れるのかなど,輻射強度の定量を目的としてシミュレーションと実験を行っています.

アルミニウム溶解炉の概略図

アルミニウム溶解炉の概略図

 

研究課題

  • 燃焼炉の熱損失が大きい
  • 燃焼効率が低い
  • CO2やNOxといった燃焼排出物が多い

 

研究アプローチ

  • 実験・シミュレーションで火炎からの輻射伝熱量を決定
  • 炉に高効率で輻射伝熱する火炎の条件を探索
2015-03-21